愉快なタクシー運転手さんと出会った話

終電を逃してしまいやむなくタクシーで帰宅することにした。会社に泊まるとか漫画喫茶に泊まるとかは、年齢的にもうしんどい。

深夜タクシーが好き

タクシーで深夜の都心を走るのは好きだ。何とも言えない郷愁を感じる。シートに疲れた体を預けて、今日も一日よく働いたなぁと、特に何かを考えるでもなくただ流れる景色をボンヤリと眺める。なんだか、それが「いい」。たぶん、自分に酔ってるんでしょうね。田舎者の私が、どうにかこうにか大都会東京で生きて行けているという状況に、酔ってるんです。ふふ。

ただし、そのためには良い運転手さんに当らないといけない。私は初対面の人とのお喋りが得意ではない上に、深夜は思考が回らない。タクシーに乗った時は行き先を言ったらあとは黙っていたい。ただ静かに過ごしたい。とにかく、私のことは放っておいてほしい。とはいえ、話し掛けられれば、大人の対応はします。愛想よく応じます。でも、できれば喋りたくないから、それ以上話し掛けないでオーラは出します。察しのいい方であればそれ以上は踏み込んでこないが、客のことなどお構いなしの運転手も少なからず存在する。


先日出会ったタクシーの運転手さんは、当たり触りのない時事ネタで話し掛けてきた。当たり障りなく応答する私。会話は途切れ、しばらくすると、また話しかけられた。三回ぐらい当たり障りのない世間話をしていると運転手さんが乗ってきてしまい、どんどんと話出してしまった。うーん、困った。寝たかったんだけどなぁー。でも運転手さん楽しそうなので、少し話にのってみることにしました。

運転手さんをノセてみる

「それって◯◯っていうことですか?」「なるほど!それは面白いですね!」「それで、どうしたんですか?」
同意し、質問をして、運転手さんをのせてみた。
最初は、家族の愚痴だった。おじさん運転手にはありがちだ。仕事の愚痴、家族の愚痴。ほとんど自虐ネタ。聞いてるこっちはちっとも面白くない。このまま、こんなつまらない話に付き合わされるのかと思ったが、話は思わぬ方向へ。

どういうわけか、運転手さんの好きなテレビ番組の話に発展し、そこから好きな映画の話、俳優の話、運転手さんの映画評論まで至ってしまった。それが、なかなか面白かった。完全に偏屈なのだ。演技をしようとしているのが気に入らないと言うのだ。感動させようとか、泣かせようとか、笑わせようというのが透けて見えて、どうにもストーリーに集中できないのだと。私も、感動ストーリーは制作側の「感動するでしょ?泣けるでしょ?好きでしよ?こーいう話」という意志を感じてしまうから嫌いだ。だから、運転手さんと意気投合して、ここから話が盛り上がってしまった。

その後は、運転手さんのおしゃれの話、若い頃の話、私の仕事の話など本当にいろいろ話をした。タクシーの運転手さんとあんなに盛り上がったのは初めてだ。

タクシーは見知らぬ人と時と空間を共有しないといけない。だから、運転手の良し悪しで、その後の気分が大きく左右される。ほんのわずかな時間でも、嫌な人にあたればその日ずっとモヤモヤする。

でも、その日はあまりにテンションあがりすぎてしまって、なかなか寝付けず困ってしまった。深夜に面白い運転手さんにあたるのはいいけれど、困るかなー。